PRODUCTION NOTE
現代生活の混乱の中で自分を見失っている普通の男性の、コミカルでほろ苦い状況を好んで描いてきた監督のアレクサンダー・ペインが、原作となったレックス・ピケットの「SIDEWAYS」を読んだのは、『ハイスクール白書 優等生ギャルに気をつけろ!』と『アバウト・シュミット』でアカデミー賞に2度ノミネートされる前の、1999年だった。ペインは言う、「僕が『サイドウェイ』のような物語に一番心動かされるのは、そこに居る人間であり、人間の本質だ。彼らは欠点を持った人間で野望を抱いているが、それらは必ずしも美しい終わり方をしない」プロデューサーのマイケル・ロンドンが、ペインがこの物語に惹き付けられた理由をさらにこう説明する。「アレクサンダー自身が、この物語の主人公たちの年齢に近づいているからさ。僕も同じだ。人生のある時期になると、自分という存在の真ん中に立ち止まり、戸惑う瞬間があるものだ。過ぎてしまった人も、これから迎える人もいるだろうが、みんな経験する。それは重要な瞬間だよ。現実的な決定を下さねばならず、もはや夢のようにただ思い描く未来に隠れ続けることは出来ない。それがこの物語であり、アレクサンダーが思いをはせるところだと思う」
原作者レックス・ピケットによると、この小説のアイデアは、数年前、彼が友人と共に参加したワイン・テイスティングの場で生まれたそうだ。「友達にワインやそれにまつわるクレイジーな物語を、必死になって話している自分にふと気づいた」と、ピケットは振り返る。「2人とも少し酔いが回って、僕が友人を大笑いさせたら、彼が『この話を書くべきだよ』と言った。そこで僕が冗談めかして、『「ワインと2人の男」というタイトルの話を書くよ』と答えた。こうして家に戻り、友人をモデルにしたジャックと、多少僕自身をモデルにしているマイルスの物語を自分は書かなければならないのだと思い始めた」ピケットは、これまでにも何本かのインディペンデント映画の脚本を書いている。この小説も当初は脚本として書かれ始めたが、結局は小説の形で発表された。しかし、ペインと脚本家パートナーのジム・テイラーは、映画にぴったりな、主人公たちが交わすコミカルな会話を、小説の中にたくさん見出したそうだ。テイラーは言う。「僕たちは小説からたくさんの台詞を使わせてもらった。レックスは、すでに非常に視覚的な文章を書いてくれていたのでね」
ペインは、悩みを抱えた2人の中年男の物語を徹底的にリアルに仕上げるために、あえて世間的にはあまり有名ではない俳優をキャスティングした。マイルス役には、『アメリカン・スプレンダー』のハービー・ピーカー役で、ようやく世に知られるようになったポール・ジアマッティ。「マイルス役にはポールがまさにぴったりだと、僕は即座に感じた」と、ペインは言う。ジャック役には、ペインが以前から目をつけていたという、これまで比較的テレビ畑の仕事の多かったトーマス・ヘイデン・チャーチ。「彼のユーモア、彼のイカツいながらハンサムな外見、そのくだけた感じとTVでの数多い経験。今回のキャラクターにはどれもが面白い組み合わせ要素になった」そして、ジアマッティとチャーチは、出会ってすぐお互いの相性がぴったりだと気づき、ペインが望んだように、2人の間にコミカルでありながら痛烈な色合いが生まれた。「トーマスとポールは実生活でも、本当に愉快な連中で、2人のユーモアのセンスやそれぞれのキャラクター理解が見事にうまくかみ合った」こうした俳優同士の相性は、マイルスとジャックにロマンチックな「寄り道」をさせる女性2人、マヤとステファニーにも必要だった。マヤ役に選ばれたのは、これまで比較的B級映画の出演の多かったヴァージニア・マドセン。プロデューサーのマイケル・ロンドンが言う。「ヴァージニアは信じがたいほど美しく、愛らしく、暖かで、素直。これらはすべて、マヤの重要な資質だ。彼女のソウルフルで、本物の心の温かさは、ポールのキャラクターともぴったりだった」そして、ステファニー役に、監督のペインの実生活のパートナーでもあるサンドラ・オー。やはりロンドンが語る。「サンドラは女優として、非常にオープンな心の持ち主なので、衝動的でワイルドで、ジャックと恋に落ちるほど自分を見失っているが、真実を知り、ジャックに怒りを向けると、みんなも納得して、ステファニーを応援したくなるように演じてくれた」そして、オーが言う。「そんな即興的な、本当に特別な関係を楽しんでいる私たち4人の演技を、アレクサンダーはスクリーンに捉えたのだと思う」
ペインは、これまで全作品で出身地であるネブラスカ州オマハにこだわって撮影場所を選んできたが、今回は原作に忠実に、カリフォルニア州でロケーションを行なった。中でも主要な舞台となるサンタバーバラ郡のサンタイネズヴァレーは、ハリウッドからすぐ近くにありながら、ジャック・ニコルソンとジェシカ・ラングの『郵便配達は二度ベルを鳴らす』(81)を除いては、今まで映画のロケ地として使われることのなかったのが不思議なほど、まだ手つかずの美しい風景がたくさん残っている場所だった。また、ペインの映画では、実在するショップやレストランがしばしば登場してきたが、例えば今回の映画でもマイルスとジャックが宿泊する、風車が印象的なモーテル「ウィンドミル・イン」や、マヤの勤めるワイン・レストラン「ヒッチング・ポスト」は、ブエルトンに実在するスポットである。
この映画の撮影はフォトジェニックな撮影に定評のある名手フェドン・パパマイケルに依頼した。ペインは、70年代のアメリカ映画に心酔しており、そのテイストを理解してもらうために、パパマイケルにハル・アシュビー、ジャン=リュック・ゴダール、ベルトラン・ブリエなどの作品を見せたという。パパマイケルは、今の機材で60〜70年代のソフトでパステル調の色彩を出すために、フィルターとフィルム素材を駆使してペインの狙い通りの画面を作り出し、見事その期待に応えた。
この映画の全編を彩る、洒落たジャズのスコアーを書いたのは、これまでのペイン作品のすべての音楽を担当したロルフ・ケント。ペインは初め、この作品に60年代のイタリアン・ジャズ風のスコアーを付けてくれないかとケントに依頼した。ケントはそのために名うてのジャズ・ミュージシャンを呼び寄せ、この映画のためだけの“サイドウェイズ・ジャズ・オーケストラ”が作られた。ペインは、録音時にも当時のモノラル録音ができないかと要求するほどのこだわりを見せたが、台詞とのミックスの都合上、そのアイデアは断念。しかし、スコアリング・ミキサーのグレッグ・タウンリーが、ステレオ録音したあとに技術的な加工を施し、ペインのイメージに近い音質を実現した。
ペインが、ピケットの同名小説に心惹かれたのは、主人公のマイルスほどではないにしろ、ペイン自身がかなりのワイン好きであったことも大きい。ペインは、撮影に入る前、映画に出てくるようなサンタバーバラのワイナリーを数多く回り、映画の中で焦点を当てるワインに慣れ親しもうと努めたという。ペインは、「映画の中では、単純に、僕の好きなワインや僕の好きなワインメーカーの製品を登場させた。必ずしも、最高のワインを選んだ訳ではない。ただ、僕たちがおいしいと思ったものだよ」というが、マイルス秘蔵の時価$1000は下らないという61年物のシュヴァル・ブラン、マヤが最初にハマったという88年物のサッシカイア、ステファニーがそれだけは開けないようにと念を押すリシュブールなど、ワイン・マニア垂涎のブランドの話題には事欠かない。また、この映画がワイン好きをニンマリさせるのは、ワイン通の間で古くから繰り広げられてきた、ピノ/カベルネ論争を、マイルスとジャックのキャラクター設定に巧みに利用している点だ。ピノは複雑で、生産が困難な葡萄であり、カベルネはピノより耐久性に優れ、気楽に楽しむことができる。原作者のピケットが、次のように語っている。「ジャックは、何でも自分の口に入れて味わってみる男だ。ところがマイルスはピノにこだわっている。ピノはもっとも複雑なワイン葡萄の一種で、もっとも期待はずれの大きな品種でもある。ということで、ジャックはこだわりのない方を選び、マイルスは失望する方を選んでしまうことになる」