INTRODUCTION

人生は極上のワインのように、そのピークを迎える日まで日ごとに熟成し、複雑味を増す。 それからはゆっくりと坂を下っていくが、ピークを過ぎた味わいも捨てがたい……。

Sideways 誰にだって1つや2つ、夢や希望がある。10代、20代はそれを叶えようと夢中で過ごしていけるが、人生の半ばを過ぎた頃には、それまで抱いていた夢や希望の多くが叶わないことを知り、人は愕然とする。自分に残された人生の短さを知って焦りもする。単調な日常の中で息も詰まる。なかなか現実を直視することは難しい。でも、次の一歩を踏み出すためには現実の自分をまず、ありのままに受け入れなければならない。そのためには、ちょっと立ち止まってみること、「人生の寄り道」も必要だ。「サイドウェイ」は、まさにそんな「人生の寄り道」を描いた映画である。
 離婚のショックからまだ立ち直れないでいる、中年の小説家志望の国語教師マイルスが、結婚を1週間後に控えた大学時代からの親友ジャックと連れ立って、カリフォルニアのワイナリーへとワイン・ツアーの旅に出る。ワインやゴルフ三昧の気ままな男二人旅。マイルスは、オタクといえるほどのワイン通だが、人生の憂さをワインに夢中になることで粉らせようとしている。そんなマイルスが旅の途中で出会う、ワイン好きの魅力的な女性マヤ。さまざまな事件を通して、旅はいつしかマイルスが自分自身を見つめ直す旅へと変わっていく。そして、人生のピークを過ぎたダメ男にも訪れる、ささやかな希望の光。

 この映画のもう一人の主役はワインだ。映画の随所に出てくるピノ種やカベルネ種などに対する蘊蓄。1,000ドル以上はするかという61年物のシュヴァル・ブランや、88年物のサッシカイアなど、マニア垂涎のワインの話題が次から次へと飛び出してくる。そして、ワインは登場人物たちの人生にも喩えられ、この映画になくてはならない重要なテーマとなっているのだ。

 カリフォルニア州サンタバーバラのワイナリーの、のどかで美しい田園風景の中で繰り広げられる、可笑しくもちょっと哀しい人間模様。「サイドウェイ」は、こんなシニカルな人間喜劇を撮らせたら、おそらく今この人の右に出るものはいないと思われる「アバウト・シュミット」(02)のアレクサンダー・ペイン監督の最新作だ。レックス・ピケットの同名小説を、切なさと優しさをにじませながらも、いつものペイン風コメディに仕立て上げている。主人公のワインを愛するダメ男マイルスを、「アメリカン・スプレンダー」(03)のポール・ジアマッティが、抜群の演技力で好演。そして、プレイボーイのジャック役を、「ジャングル・ジョージ」(97)や「スコーピオン」(01)のトーマス・ヘイデン・チャーチ、マヤ役に「レインメーカー」(97)のヴァージニア・マドセン、ジャックが恋に落ちるステファニー役に「トスカーナの休日」(03)のサンドラ・オーと、しっかり演技派が脇を固め、素晴らしいカルテットを奏でている。

 「サイドウェイ」は批評家からの絶賛を受け、本年度ゴールデン・グローブ賞2部門受賞、ニューヨーク、ロサンゼルスの東西映画批評家協会賞作品賞W受賞他、数々の賞に輝き、本年度アカデミー賞の大本命として注目されている。

Grape この映画を観ると、きっと日常の雑事から離れ、ちょっとどこかで“人生の寄り道”をしたくなるはずだ。ワインを片手に、気のおけない友人たちと語り合う、そんな瞬間にこそ幸福が潜んでいることを、この映画は優しく私たちに語りかけてくる。



3月5日よりヴァージンTOHOシネマズ六本木ヒルズほかにてロードショー